2006年05月12日

芸術と教育 「ベルリンフィルと子どもたち」

Ph2_bptop  HDRにぶち込んであった 「ベルリン・フィルと子どもたち(原題:RHYTHM IS IT!)」を見た。 ベルリンフィルの指揮者サイモン・ ラトルの発案によるプロジェクトを記録した映画。人種、宗教などそれぞれ異なる背景を持つ子ども250人が集められ、 創作ダンスを練習、オーケストラに合わせてのダンスを大観衆の前で披露するまでを描く。

 映画を見ながらある記憶が蘇ってきた。わたしが通っていた中学校では文化祭で合唱、 創作ダンス、壁画製作、学級展示などをクラス対抗で行う伝統があり、まさにこの映画と同じような光景が繰り広げられていたからだ。 おしゃべりに夢中な女子に、斜に構えてやる気を見せない男子…。こんなんで満足に発表できるわけない。誰もがそう思っていた。

そんな雰囲気が変わり、みんなが一丸となったきっかけは何だったろうか。 他のクラスが予想以上の進歩を見せているのを知ったとき(また担任が煽るんだわ)かもしれない。それまで寡黙に練習に励んでいた女子が突然 「みんなマジメにやろうよ…」って泣き出したときだったかもしれない。

壁画担当だったわたしの場合はあるクラスメートの知られざる姿を目撃したことだった。 締め切りには到底間に合いそうにない。諦めムードの中、普段隠れてタバコを吸っていた奴が突然わたしたちを指揮し始めた。 実はメチャクチャ絵心のある奴だった。結果ありえない速さで完成にこぎつけた(もちろん賞は逃したが)。

合唱、ダンスの練習や、壁画製作などはほとんど授業の枠外で行われていたように記憶している。 授業に組み入れたのは音楽の時間ぐらいだったろう。 塾通いが当たり前になった今では想像もつかないけれどみんな普通に夏休みに学校に出てきたし、放課後の1??2時間、 部活の前に必死で練習した。そうしてそれまでは机を並べているだけだったクラスメートがひとつになっていった。 一生の友人ができたのもこの頃だった。

    おそらく美化込みの思い出を延々と述べてしまった。 この映画を見て同時に感じたのは芸術が学校教育においていかに重要な位置を占めているかということだ。 わたし自身知らず知らずのうちに組織立って物事を進めること、 それぞれの個性を生かして適材適所で作業することの重要性などを実践から学ぶことができたと思う。サイモン・ ラトルも公開にあたってのインタビューでこう語っている

他者とどう付き合うか、共同作業はどう行なうか、 感情をどう表現するか等を教えるのに芸術を用いるんだ。特に十代はいろいろな感情が内面から湧き出てきているのに、 それをどう表現したら良いか分からず破裂しそうになってるだろう、“魂のにきび”って言ったらいいのかな(笑)。 芸術は全ての物事に信じられない程の影響力を持つんだ。何かを癒すだけでなく、他のものを学ぶ手助けにもなるんだ。  

ベルリンフィルと共演した子どもたちも、わたしも、 そして同じような作業を行ったことのある人はすべてこの芸術の力を実感した経験を持つ。 そしてその経験は人生においてかけがえのない財産に転化していく。

    ここまで書いて思い出したことがある。 義務教育国庫負担金の問題だ。例の三位一体の改革で、 国は本来は憲法で国家に課せられた義務である教育の提供を税源委譲の名を借りて自治体に押し付けようとしている。 委譲された税源<地方交付税、補助金なのは明らかだから、自治体が自前で教育を提供しようとすれば質を落とすか単価を上げるしかない。 義務教育の建て前上後者は取りえない。必然的に地方の教育は劣化していく。アメリカで行われたように芸術、 体育の教員がリストラされる事態も起こるだろう。

001212 ググってみたところ文科省のサイトに教育の地域間格差について背筋の寒くなるようなレポートが掲載されていた。 税源委譲の結果40都道府県で財源不足が生じるという。すでに一般財源化した教材費、 旅費などではモロに格差が生じているのに今度は教員の人件費(現在は国と地方で折半)に手をつけようというのだ。 なぜこんなことがまかり通るのか不思議でならないし、そもそもこんな重要なことを知らない人が多過ぎる。

    不況を経験したベルリンは芸術の力で蘇ろうと模索しているとある雑誌で読んだ。 賃料が安いため欧州各地から若手のアーティストが集結しつつあるのだそうだ。前述したインタビューのラストでラトルはこう語る。

私は感じているんだよ、我々教育に携わる者は長きに渡って型にはまった人間を育ててきたと。 我々がこれまで築いてきた社会は消えたのだと思う、これからの社会のためにもっとクリエイティヴな人間が必要だ。 違う物事を結び付けたり、新たな方向に進むことのできる人間が必要なんだ。そして言葉でなく、芸術こそが社会を盛りたて、 人々に活力を与えるんだ。芸術は言葉よりもパワフルなんだ。(中略) いまベルリンではかつてない規模で経済破綻が進んでいる。芸術は存続のために戦わなくてはならないだろう。 我々は行動を起こさねば、これからの時代を生き残るためにね。この狂った時代、人々は芸術全般に生きる意義を見い出すだろう。

    わたしたち日本人は、 この狂った時代において何に生きる意義を見出すのだろうか。

 

posted by tso-tsi at 23:56 | Comment(1) | TrackBack(1) | cinema2006
この記事へのコメント
原題とかをHDRしなかった。
Posted by BlogPetのぴょん吉 at 2006年05月13日 13:36
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